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※受賞者・ご来賓の所属・役職・プロフィール内容は受賞当時のものです。

2024年本田賞 業績解説

今日の眼科医療に決して欠かせない存在

光の干渉を利用して組織の構造を可視化するイメージング技術・光干渉断層撮影(Optical Coherence Tomography:以下、OCT)はヘルスケアの世界に大きなインパクトを与えました。特に眼科の検査・診断を大きく変え、もはやOCT装置なしの眼科医療は考えられないほどの存在となっています。アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)電子工学研究所 電気工学・コンピュータ学科 エリフ・トムソン冠教授のジェームス・G・フジモト博士は、1980年代から光通信の研究者や眼科医を加えた学際的研究チームを率い、医療用OCT技術を最初期から一貫して牽引してきました。研究開始当時、これは医工連携による研究開発の先駆けとしても非常に画期的なものでした。
OCTは組織の表面から数mmの深さまでを高い解像度で可視化できる技術です。人間は眼球のレンズから光を取り込み、眼球の後部(眼底)にある網膜に光が当たることで画像を認識しており、特に視力が鋭い黄斑でその機能が発揮されます。網膜は糖尿病網膜症1 、加齢黄斑変性2(AMD)、緑内障3など、視力低下や失明をもたらす様々な病気にかかりやすい組織です。網膜の厚さは0.1~0.5mm程度で、OCTは網膜の断層画像や3次元画像を高解像度で取得できる唯一の技術です。また、弱い光線を眼球に当てるだけで、患者に不快感を与える造影剤を注射する必要もないため、極めて安全性の高い技術です。

患者に負担なく網膜の断層を可視化する

OCT装置の登場以前、眼科医はスリットランプ顕微鏡装置4や検眼鏡5を使って患者の網膜を検査していました。異常が見つかった場合は、写真撮影や蛍光眼底造影による検査が行われましたが、これらの方法で得られる画像は、網膜を前方向から見た、限られた情報しか提供しない2次元(2D)画像に過ぎませんでした。
1980年代にフジモト博士は光の干渉現象を利用して組織内部の微細構造を高解像度で画像化しようと着想。ハーバード大学医学部の網膜専門医カルメン・プリアフィット博士と共同研究を始めました。ほどなくして、光ファイバーと衛星通信の専門家であるエリック・スワンソン博士も加わりました。その後、ハーバード大学とMIT医学博士課程の学生だったディビッド・ファンのアイディアを得て、眼科用OCT装置のプロトタイプが完成しました。
1996年に第一世代のタイムドメイン方式OCT (TD-OCT)技術を使用した眼科用OCT装置が発売されました。この装置は、光学スキャンの断片を積み重ねることで網膜や他の組織の断層画像を作成しました。TD-OCT技術は多くの網膜疾患の理解を深め、診断を改善し、治療の指針となりました。
2006年には、フーリエドメイン方式による第二世代OCT(FD-OCT)を使用した眼科用OCT装置が発売され、画像処理速度が飛躍的に向上しました。レーザーが網膜をスキャンして3D画像をリアルタイムで生成し、網膜の構造を深さごとに可視化して、詳細な画像と定量的な測定値を行います。加齢黄斑変性や糖尿病網膜症のための新薬が開発されるなか、OCTは治療反応の測定や再治療の指針として使用されています。これにより、OCTは世界中の眼科クリニックに普及しました。OCT技術の特徴と、患者に負担をかけずに眼底の構造をつぶさに可視化したいという眼科医療のニーズが見事にマッチしたのです。

OCTの発展と医療への成果

OCT装置は眼科において標準的なものとなり、毎年世界中で2,000万から3,000万回の撮影が行われています。また、OCT装置による眼の検査は、糖尿病、高血圧、神経疾患などの全身性疾患を検出する可能性があります。
多くの疾患は初期段階では目立った症状を示しませんが、早期治療は疾患の進行を防ぎ、将来的な罹患率や死亡率を低減するうえで極めて重要です。医療機器各社はOCT装置を、メガネ店や薬局、かかりつけ医の診療所等で手軽に使えるよう開発を進めています。OCT装置でのスクリーニングが普及すれば、病気の早期発見・早期治療がさらに広まり、人々の健康状態の大幅な改善することができるでしょう。
OCTは他の多くの臨床分野でも開発が進んでいます。光ファイバーカテーテル、腹腔鏡、内視鏡と組み合わせることで、体内の構造物の高解像度の断層画像を提供できます。冠動脈の血管内OCTは新たな応用分野であり、研究によれば、心筋梗塞患者に対して行なったOCT治療は、将来の重大な心血管系の疾病が発生する確率を低減する効果があります。
現在、世界中で100を超える学術研究グループと企業がOCT技術と臨床応用の開発に取り組んでいます。研究者、エンジニア、臨床的指導者、業界の進歩により、医療と生活の質が向上することが期待されています。
(出典:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/20-眼の病気/眼の病気の診断/眼の検査)


1 糖尿病の合併症のひとつで、目の網膜に起きる障害。 進行すると失明に至る。 糖尿病網膜症は糖尿病が原因で目の網膜に起きる障害。高血糖の状態が長く続くと、目の網膜に広がっている毛細血管が傷つき、進行すると失明することがある。
(出典:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-061.html)
2 老化に伴い、網膜の中心に出血やむくみをきたし、視力が低下する病気。
(出典:https://www.gankaikai.or.jp/health/51/index.html)
3 眼圧によって視神経が障害されて視野が狭くなり、最終的に視力が低下してしまう病気。
(出典:https://www.gankaikai.or.jp/health/56/)
4 卓上に置く双眼型の顕微鏡で、患者の眼に光をあて拡大して観察するための機器。細隙(さいげき)灯のレンズは直像検眼鏡のものより性能がよく、大きな倍率で立体的に見ることができるため、奥行きの測定も可能。
(出典:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/20-眼の病気/眼の病気の診断/眼の検査#眼底検査_v1157354_ja)
5 医師が患者の眼の内部を診察するための器具。角度がついた鏡や様々なレンズ、光源が備わっている。医師は検眼鏡を使って、網膜、視神経、網膜動脈・静脈のほか、硝子体の一部の異常を見ることができる

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