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2025年本田賞 業績解説

1960年に生まれたレーザー

 レーザー (LASER) とは、Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(誘導放出による光の増幅)の頭文字をとったものです。高いエネルギー状態にある原子群や半導体中の電子に、状態間のエネルギー差に見合う波長の光を当てると、電子は低いエネルギー状態へ移行しながら光を放出します。これが「誘導放出」と呼ばれる現象です。放出された光は、次の励起された原子に当たって光を放出し、多くの原子による繰り返しによって、同一波長、同一方向、波の位相が揃った光を得ることができます。正味の光の増幅を得るには、電子を高いエネルギーの状態に保つ励起が必要です。さらに、この光を“合わせ鏡”で往復反射させる“共振器”に入れておき、励起を強くして誘導放出による増幅を繰り返すと、増幅度が反射鏡での光漏れや内部での光の損失などと釣り合うところが現れます。すると、今までとは全く異なる『発振』という状態が生じます*1。共振器の中では、共鳴波長のみにエネルギーが集中し、波長と位相が揃っている単色光が得られます。この光はレンズで集光すると一点に集中させることができるという特徴があります。現在、レーザーは通信、光ディスクやプリンター、各種計測、医療、加工・溶接などの工業利用、アトラクションまで幅広く使われています。
一方、LED(発光ダイオード)は、半導体素子からの自然放出による「波長も方向も広がる光」を照明やディスプレイなどに利用するもので、発振を原理とするレーザーとは性質が全く異なります。
誘導放出による電波の増幅は、1950年代後半に米ベル研究所のアーサー・ショーロー博士とチャールズ・タウンズ博士によってマイクロ波で試みられ、メーザー(MASER)と名づけられました。対象が可視光へと移り、1960年に米国の飛行機会社ヒューズ研究所のセオドア・メイマン博士が、ルビーの結晶を用いた世界初のレーザーを実現しました*2。伊賀博士が、1962年から東京工業大学の学生時代に末松安晴助教授(後に学長)のもとで研究したのが、このルビーレーザーでした。その後、助教授となり「レーザー」と大学院博士課程で研究した「光伝送」の2つをテーマに選んだ伊賀博士は研究を深め、ついには面発光レーザーの発明へとつなげていきました。

夢の半導体レーザーを作りたい

 レーザーの素材にはルビーのような固体の他に、液体、気体、半導体などさまざまです。特に半導体レーザーはデバイスを1mm以下まで小型化でき、消費電力もわずか1/100ワットと少ないため、通信用として期待されました。1970年にはベル研究所の林厳雄(はやし いずお)博士らが、常温で連続発振する半導体レーザー発振に成功しました。林博士の講演に触発された伊賀博士は1974年から光通信用半導体レーザーの研究に取り組み始めます。
 当時唯一存在した半導体レーザーは「端面発光」と呼ばれるもので、半導体上の表面に水平方向にのびるストライプ状の増幅領域を光が往復して共振する仕組みでした。反射鏡は、半導体ウエハーを劈開(へきかい)によって割った平行面が使われていました。1976年頃、端面発光レーザーは、往復する距離が光の波長に比べ300倍も大きいため、多くの波長の光が生じやすく、しかも一貫製造ができないことが難点であると伊賀博士は考えていました。そして、「一貫したウエハプロセスで製造でき、しかも一つの波長で発振し、さらに波長の再現性が良い半導体レーザーはできないだろうか」と考えました。考え続けていた伊賀博士に、1977年のある夜「横のものを縦にしたらどうか」というひらめきが浮かびます。
 この発想から誕生したのが「面発光レーザー(VCSEL)」です。半導体基板の上に、発光領域として薄膜を重ねた素子を製作し、上下に配置した反射鏡で光を縦方向に共振させ表面から出力します。素子の直径はわずか2〜10ミクロン(1ミクロン=1000分の1ミリメートル)で、大きな半導体基板の上に高密度で配列することができます。

面発光レーザーの実現に向けて

 1978年の学会発表当時、周囲は「面白いが、実現は無理だろう」という反応でした。しかし伊賀博士は研究室で学生たちと共に基礎研究を重ね、国内外の学会や国際会議などで根気強く発信を続けました。
 それから10年後の1988年、研究チームの一員だった小山二三夫博士(のちに教授)が室温での連続動作に成功。1990年代後半には多くの研究者が参入し、実用化が進みます。2025年には面発光レーザーの市場は40億ドル規模に成長し、その応用範囲はコンピューター用のマウスやレーザープリンターなど多岐にわたります。特にデータセンターやLANにおける超高速・大容量の並列配線の実現、省電力を活かしたスマートフォンにおける3D顔認証、LiDARへの展開など、私たちの生活を大きく変える光エレクトロニクス技術の牽引役となっています。なお、2025年10月28日には、IEEE(電気電子学会)からマイルストーンの認定を受けることになっています。


*1 発振とは:増幅部から出た波が入力部に戻される(フィードバック)状況下で、散乱や吸収で減衰するのを増幅作用が打ち消すと、ある特定の共鳴波長の波にエネルギーが集中し急激に強くなる現象。例えば、スピーカーから出た音をマイクで拾うと、ピーっという強い音がなる。一種の音波の発振である。
*2 光は宇宙創生の時から存在していた。しかし、メイマン博士による光の発振器(単にレーザー)とレーザー光の出現は、宇宙史上初めての画期的な出来事であった。

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