本田財団は、2016年11月19日に東京大学にて、「エコテクノロジーでエネルギー安全保障を達成する」をテーマに、Y-E-Sフォーラムを開催しました。これはベトナム、インド、カンボジア、ラオス、ミャンマーの各国で本田財団が展開しているY-E-S奨励賞の受賞者たちの参加の下、地域の課題認識、その解決に科学技術が果たすべき役割や、国境を越えた協力関係の構築などについて、日本を含むアジアの若手科学者・エンジニアが中心となって議論する場として企画したものです。
今回はY-E-S奨励賞受賞者によるプレゼンテーション、企業展示、日本におけるトップレベルのエネルギー関連のスピーカー2名による基調講演、パネルディスカッションを実施。また、本フォーラムに合わせて研究ポスターコンテストを開催し、コンテスト参加者によるプレゼンテーションと表彰式も行われました。
◎Y-E-S奨励賞受賞者によるプレゼンテーション
5カ国のY-E-S奨励賞受賞者が登壇し、それぞれの出身国が抱えているエネルギー安全保障問題の現状と解決策についてプレゼンテーションを行いました。ベトナム代表はエネルギー需要の増加と風力発電の潜在性について発表する一方、ラオス代表は水力発電を将来のエネルギートレンドとして紹介しました。インド代表は、エネルギー安全保障のための再生エネルギー利用について話し、カンボジアからは都市部貧困地域での省エネルギーという問題が提起されました。ミャンマーはエネルギー価格政策に焦点を当てました。それぞれの発表に対し、会場からは積極的に質問の手が挙がりました。
プレゼンテーションを行うラオス代表
会場からは積極的な質問が寄せられた
◎エネルギー関連技術についてY-E-S 奨励賞受賞者によるプレゼンテーション
今回、エネルギー分野を専門とするY-E-S受賞者からのプレゼンテーションも興味深いものでした。Nguyen Binh Minh博士はベトナムのY-E-S受賞者で、現在は科学技術振興機構(JST)の研究員、及び、東京大学大学院情報理工学系研究科情報物理コンピュータ部門研究員として、日本で活躍しています。彼は、「制御工学の視点から電気自動車で地球を救う」と題してプレゼンテーションを行い、運動制御システム・ビジュアル自動制御システム・状態推定理論・マルチエージェント制御理論とその応用に話は及びました。会場からは多くの質問が寄せられ、活気に満ちた雰囲気のうちにセッションを終えました。
電気自動車についてプレゼンテーションを行うDr. Nguyen Binh Minh
◎企業展示
本年は産業界から、千代田化工建設(株)がポスター展示及びプレゼンテーションを行いました。1948年に設立され、LNG・石油・ガス・化学をはじめとするエネルギー分野のトップ企業である千代田化工建設のプレゼンテーションは、エコテクノロジーと日本のエネルギー安全保障に関するもので、Y-E-S Forumが更にダイナミック、且つ、有意義なものとなりました。
千代田化工のプレゼンテーション
千代田化工のポスター展示には熱心な質問が寄せられた
◎基調講演
基調講演は、東京大学大学院教授である中野義昭博士(工学系研究科電気系工学)と笹川平和財団理事長の田中伸男氏(国際エネルギー機関(IEA)元事務局長)の2名が登壇。中野博士は、再生可能燃料による持続可能文明への転換について説明し、化石燃料の代替を目指した超高効率太陽電池とその水素とメタン製造への応用についての研究を紹介しました。田中氏は「嵐の中の将来エネルギーと持続可能な原子力」と題し、中東からの低価格原油に過度に依存することで高まりかねない将来の安全保障リスクと、福島の事故による教訓を得て、原子力をいかに持続可能なエネルギーとするかを説明しました。エネルギー安全保障問題の解決策として日本の知見と将来の見通しに触れられる、貴重な場となりました。
中野義昭博士
田中伸男氏
◎パネルディスカッション
基調講演終了後、休憩をはさんでパネルディスカッションが行われました。Y-E-S奨励賞受賞者6名と基調講演を行った中野博士、田中氏の8名が登壇し、当財団業務執行理事であり、東海大学工学部教授の内田裕久博士をファシリテーターとして議論が進行しました。まず内田博士より、今回のテーマへの理解を深めるための短いプレゼンテーションがあり、本田財団が定義した"エコテクノロジー"というキーワードの意味も説明されました。議論の初めに、中野博士より、「アジア各国の共通課題として、将来エネルギー需給が増大すること、そしてそれは自然エネルギーによって下支えできる。しかしながら、将来的には、コストと強靭さにおいて、再生可能エネルギーを使用する新しい時代をどのように作っていくか、という解決策を見出すことが可能であろう。」という話がありました。田中氏は、「エネルギー安全保障を達成するには、技術の他に、人類の生活様式、グリーンコミュニティーもまた大切な要素である。これを達成するには、集団としての考え方がひとつの方法となり得る。誰もが共通の目標に向かって協力しなければならない。Y-E-S奨励賞受賞者は次世代のためにエネルギー安全保障を達成するには、地域だけでなく、地球的レベルで、エネルギー生成とその使用法を検討する必要がある。」と指摘しました。内田博士の進行は会場の参加者まで巻き込んでの自由な意見交換に発展し、有意義なディスカッションとなりました。
パネルディスカッションの様子
ファシリテーターを務めた内田裕久博士
◎研究ポスターコンテスト
本フォーラム開催にあたり、エネルギー安全保障をテーマとした研究ポスターコンテストが実施されました。参加者にネットワーキングの機会を設けることと、彼らの研究の向上、共有することを目的とするものです。会場には14チームのポスターが掲示され、事前審査を通過した10チームがプレゼンテーションを行いました。本田財団理事、基調講演スピーカー、本田賞受賞者からなる選考委員会により最優秀賞、優秀賞が選出されました。観客賞はフォーラム参加者の投票によって選ばれました。ランチタイムを兼ねた観覧時間では、会場の各所でポスターの制作者とフォーラム参加者が議論する姿が見られました。
最優秀賞を受賞したTran Dang Longさんと
Nguyen Thi Giang Huong さん(九州大学)
優秀賞を受賞したBenioub Rabie さん
(弘前大学 北日本新エネルギー研究所)
観客賞を受賞した
Shoedarto Riostantieka Mayandariさん(京都大学)
会場内ではポスター制作者とフォーラム参加者の
議論が活発に行われた
◎Y-E-S Forum 2016 実行委員会メンバー
本フォーラムは各国のY-E-S奨励賞受賞者たちがボランティアで企画・運営に携わりました。
▼ベトナム
Nguyen Thi Phuong Thao
2007年ベトナム Y-E-S奨励賞受賞者
ドゥイタン大学研究員
Nguyen The Tuyen
2012年ベトナム Y-E-S奨励賞受賞者
フリーランス Web アナリスト
Vu Truong Minh
2014年ベトナム Y-E-S奨励賞受賞者
ハノイ工科大学研究員
▼インド
Sumeet Sanjay Gattewar
2008年インド Y-E-S奨励賞受賞者
教育関連会社IIT-HOME CEO
Jay Deepak Parikh
2009年インド Y-E-S奨励賞受賞者
Bain & Co.社 コンサルタント
Saumya Kapoor
2012年インド Y-E-S奨励賞受賞者
マッキンゼー・アンド・カンパニー コンサルタント
▼カンボジア
Thorn Sopheaktra
2011年カンボジア Y-E-S奨励賞受賞者
初等教育のためのカンボジアアクション 科学教育専門家
Phon Bunheng
2014年カンボジア Y-E-S奨励賞受賞者
フリーランス建築家
▼ラオス
Nalinh Thoummala
2015年ラオス Y-E-S奨励賞受賞者
ラオス国立大学在学中
Anoulak Hongvanthong
2015年ラオス Y-E-S奨励賞受賞者
ラオス国立大学在学中
▼ミャンマー
Kay Khaing Kyaw
2014年ミャンマー Y-E-S奨励賞受賞者
アジア工科大学修士課程(タイ)