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※受賞者・ご来賓の所属・役職・プロフィール内容は受賞当時のものです。

2021年本田賞 受賞記念座談会

信念が導くセレンディピティ

パーキンソン病の画期的な治療法として確立されたDBSの生みの親であるベナビッド博士が、実現までの道のり、将来の治療への展望、そしてこれからの人材に期待することを脳神経領域などで活躍する医師たちと語り合った。



座談会出席者

写真1_ベナビッド博士
アリム・ルイ・ベナビッド博士
写真2_狩野光伸先生
狩野 光伸博士
当財団業務執行理事
写真3_内田智史先生
内田 智士博士
京都府立医科大学大学院
医学研究科医系化学准教授
写真4_大山彦光先生
大山 彦光博士
順天堂大学
医学部神経学講座 准教授
写真5_波多野敬介先生
波多野 敬介M.D.
総合病院聖隷浜松病院
てんかん科
図3

急ぐ必要がないならば、ゆっくり慎重に進める


狩野: 本⽇は専⾨分野が異なる 3 ⼈の医師に集まっていただきました。ベナビッド博⼠の 素晴らしい業績にスポットを当て、医学の世界に限らず若い⼈たちがチャレンジする際の 指針となるよう、博⼠からのメッセージをいただければと思います。まずお⼀⼈ずつ、博⼠ に質問をお願いします。


波多野: 私は博⼠と同じく脳外科医です。DBS を行うには脳外科医があまり⼿を出さなかった脳の深部に⼊らなければなりません。どうして困難な場所に電極を埋め込む決断をされたのでしょうか?


ベナビッド: 脳外科医がこの場所をデリケートかつ危険だと考えていたのは、治らない「有害な病巣」を、従来の⼿術で扱っていたからです。症状を抑えようとすれば、ごく狭い範囲のみを取り除かなければなりません。もし他の場所まで手術で取り除いてしまうと障害や合併症を引き起こすからです。しかし、低周波や⾼周波の刺激はただ神経核の活動を刺激したりしなかったりするだけで、何も壊しません。脳外科医にも、そして何より患者さんにとってより安全になったのです。

DBSも電極を挿⼊する際に⾎管を傷つけ、出血が合併症の原因となるリスクはあります。患者さんの反応を⾒ながら、注意深く電極を挿⼊します。緊急を要する⼼筋梗塞の⼿術などと違い、DBS ⼿術は患者さんの副作⽤を最⼩限に抑えるため、ゆっくり慎重に進めるべきものです。


⼤⼭: 私は運動障害が専⾨の神経学者で、脳外科医と共に患者さんの状態をチェックしています。私がお聞きしたいのは、受賞記念講演の中で触れられていたロボトミーについてです。当初は画期的な治療法と考えられていましたが、現在では否定されています。 博⼠はロボトミーの功罪をどうお考えですか?


ベナビッド: ⽇常⽣活に深刻な⽀障をきたす神経症の患者さんにとって、脳の⼿術で症状を修正できるロボトミーは⾰命的ではありました。しかし、ロボトミーは脳の前頭葉の⼀部を永久に切る⼿術で、望ましくない影響があっても元に戻せません。そこで私たちは、電極を脳に入れて刺激する⽅法を試みました。電極は、抜けば脳は元に戻せます。幸い、電極での刺激は治療効果があり、⾼周波数の DBS に行き着きました。DBS はリスクが少なく効果的な治療法として、患者さんの団体にも支援していただきました。


⼤⼭: 博⼠はすでに DBS の分野で大きな成果を上げていますが、近⾚外線治療のような新しい分野にも進んで飛び込んでいます。そのモチベーションは何でしょうか?


ベナビッド: パーキンソン病は進⾏性の病気で、DBS を⽤いてもやがて症状が抑えられなくなります。そこで、病気の進⾏それ⾃体を止める⽅法を私は考え始めました。パーキンソン病の患者さんの神経細胞では「エネルギー⼯場」であるミトコンドリアがうまく機能していません。これを光で活性化することを考えていたとき、シドニーの脳解剖学のジョン・ミトロファニス教授が最適な波⻑についてヒントをくれたのです。近⾚外線導⼊⼿術を受けた最初の患者さんは、一ケ月後には靴紐が結べるまで回復しました。⻑期的に経過が良好であれば、まだ症状が出ていない初期のパーキンソン病の患者さんに適⽤し、進⾏そのものを防ぐことができる最初の治療法となるかもしれません。




2つの博⼠号は「良い⼦」の証

内⽥: 私は 2 年間研修医として働いた後、医学的な⾒地と⼯学的な⾒地から、主にメッセンジャーRNAワクチンの治療法開発のための基礎研究を⾏っています。パーキンソン病については、多くの研究者が低分⼦医薬品の開発や遺伝⼦治療、細胞移植などを試みました。私は神経学を少し学んだことがありますが、近⾚外線を使うことは考えてもみませんでした。なぜこのようなアプローチができたのでしょうか? また、博⼠も研究の過程で失敗を経験されたと思います。その失敗の歴史を知りたいです。

ベナビッド: 私は脳外科医ですが物理学者でもあります。「光」は物理学者を常に魅了します。⾚⾊光や⾚外線を細胞に照射し、その光が⽣体の細胞内の光受容体と呼ばれる 分⼦に吸収されれば細胞が活性化されるのではないかと考えました。「光で治療する」 というアイデアはここから⽣まれました。ミトロファニス教授に出会ったことで、私たちはそれを試み、うまくいきました。私は細胞がエネルギーを生むメカニズムも利⽤可能な光についても知っていましたから、この発⾒はセレンディピティではありません。重要なのは「もしも〜だったら」と⾃問⾃答を続けることです。優れたアイデアはすぐにそれと分かるので、飛びついて素早く研究するのです。安全性や有効性など多くのことにチェックが必要ですが、そこから最適な⼿法を⾒つけ出し実現させる。それが研究です。だから私はこの仕事が好きです。 2番⽬のご質問ですが、私は決して失敗しないのです(笑)。まず失敗のリスクを最⼩にするところから始めます。リスクを正しく評価し、失敗のリスクを最⼩限にできることがわかったときに、その⽅法を試します。「失敗しない」理由はそこにあります。 常に念頭に置かなければならないのは、患者さんに利益をもたらすことです。

狩野: そもそも博⼠はなぜ物理学を学んで博⼠号を取得しようと思ったのでしょう? また、それによってご⾃⾝のお考えがどの程度実現できたのでしょうか。

ベナビッド: 私はいわゆる「良い⼦」でした。⽗は医学博⼠で私を医師にさせたがり、 ⺟は科学好きで親戚には電気⼯学者もいました。皆を喜ばせるため、両⽅やることにしました。グルノーブルは小さな街で、医学系の建物から物理系の建物までそれほど歩かなくてすみます。おかげでパーキンソン病の問題に出くわしたとき、「物理学的な治療 法を試せるのではないか」と思いつき、物理と医学両⽅の学部で意⾒を聞くことができました。私は学⽣たちに、一つのことだけではなく色々やるように強く勧めています。 研究で成果を出すには運に恵まれ、忍耐強くなければなりません。そしてたくさんの機会に出会えるようにしなければならないのです。


波多野: 私は臨床分野のみで基礎研究にはまったく触れてきませんでした。ベナビッド博⼠は臨床研究と基礎研究の両⽅を行い、結果を残されていますね。


ベナビッド: では、波多野さんは 三つくらい試してみてはどうでしょうか(笑)。研究で重要なのは、⾃分のアプローチを狭い範囲に限定せず、機会を逃さないよう間⼝を広げておくことです。




不可能の認識が限界を作り出す


内⽥: 私は医科⼤学の准教授をしています。学⽣に基礎研究を奨励したいのですが、どうすればうまくいくでしょうか?

ベナビッド: ⼀番は⾃分でやって「こんなに良いことがある」と⼿本を⾒せることです。 ⾃分たちの研究とはまったく関係ないと思われる⼈を⼤学に招き講義をしてもらうのも良いでしょう。異なる分野を「混ぜ合わせる」ことが重要です。常に脳の中に刺激を 作り出すことです。 例えば Honda も⾃動⾞に⽬標認識など AI 技術を導⼊していますね。⽬標認識には医学においても重要な要素が含まれています。私は現在 BMI とエクソスケルトン(外⾻格 スーツ)の研究をしていますが、エクソスケルトンの平衡を保つのは⼤変難しいチャレンジです。また、BMI データ処理の前提として脳の仕組み、眼の仕組みなど医学的な検討も必要になります。私は眼の進化と脳の発達の関係に⽬を向け、本も書きました。 不可能と決めてしまうことが限界を作り出します。可能性があるのなら追求し、できる限りのことをやってみる。それをこれからの⼈たちに実践して見せていかなければと思っています。今、私たちは⾼性能なコンピューターを常時使⽤することができ、⼀⾒役に⽴たないように⾒える無限の可能性について検討する余地があるのですから。


⼤⼭: 私はパーキンソン病を対象に遠隔で動画による表情や⾳声の分析を⾏っています。 AI 技術は有望な技術だと考えていますが、「このような AI 技術は医師を病院から追い出してしまうのか?」と恐れている⼈たちもいます。

ベナビッド: AI は医師にとって代わるのではなく、補完する関係になると思います。特に医療⽤神経科学の分野では、CT スキャンや MRI 画像の解析に AI が大きな役割を果たすでしょう。AI は解析に要する時間を⼤幅に短縮します。問題を迅速に解決し、患者さんの役に立ち、障害のある患者さんの⽣活を助けることにつながるのです。


狩野: ありがとうございます。最後に、若い⼈たちに向けたメッセージをいただけますか?


ベナビッド: 私は楽観主義者です。現在起きているパンデミックのような伝染病の進化に不安を感じてはいますが、私たちはそれを乗り越え、そこから多くを学ぶでしょう。 時には悪いことも起こりますが、それ以上に素晴らしい出来事や発⾒に出会えます。前に進み続け、日々⼈⽣を楽しみ、未来を信じることです。なぜなら、あなた⽅⾃⾝が未来だからです。




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